第1期 オープンセミナー「輝け、わたし!」活動のご報告
会員部 茅根 明弘
第1弾 コラージュ(2016年10月2日SUN)
受講者のみなさんは、ふだんより手荷物が多いです。ハサミやノリ、雑誌などをカバンに入れてお持ち頂いたからです。「画用紙の色を選ぶところから、セラピーは始まっているのです」。講師の深谷八十八子(やそこ)さんは、おだやかな口調で話されます。
コラージュとはフランス語で「糊付け」のこと。雑誌などから気に入った絵や写真を切り取り、台紙へ自由に貼り付けます。その位置や絵柄、色調、余白の大きさによって、その人の願いや怖れ、課題などを読み取ることができるのです。誰でも簡単にできるこの表現技法は、今から百年以上前ピカソを中心に創められました。ピカソは子どものように天真爛漫に美を追求した芸術家ですが、参加された皆さんもまるで小学校の図画工作のように、時を忘れて取り組んでいます。
ある人は、好きな俳優の写真を中央において、その周りを“埴輪”で取り囲んでいます。不思議に思って理由を尋ねたら、「この俳優、最近売れてきて調子に乗っているから、初心を思い出せ!という意味で原始的なオブジェで取り囲みました」。別の方は熊本のご当地キャラクター『くまモン』のイラストを大小織り交ぜてたくさん貼り付けています。「最近熊本へ旅行に行き、このキャラクターがすっかり気に入ったのです」。人によってこうも違うのかと、空いた口がふさがらない感じでした。
男性も何人か参加されたのですが、その“作品”は女性に比べておおむね簡素で、余白に富んでいました。中高年という世代もあったと思いますが、画用紙を埋め尽くすではなく、来し方をしみじみと振り返ったような穏やかさが出ていました。
深層心理学や色彩心理学的な観点から、コラージュは自己理解やコミュニケーションツールとして役立てることができますし、例えば箱庭と違って、簡単な準備ですぐに始めることができるのも利点の一つでしょう。そもそもコラージュに、言葉は不要です。小さなお子さんや自閉的な傾向を持つ人のカウンセリングにも用いることができます。言葉を介さずとも、クライアントの深いこころと出逢う可能性を秘めているからです。もちろん、自分ひとりでタロットリーディングのように、運命のコンディションを調整するツールとして楽しむこともできます。
「ご趣味は?」と訊かれたら、「季節ごとにコラージュを」と言ってみましょう。「それは何ですか?」と、興味あり気な眼差しで聞き返されるはず。それをきっかけにあたたかい交流が始まります。
- 楽しく作業して解説も興味深かったです。
- 深層心理が形になった気がしました。楽しかったです。
- コラージュの体験と基礎の説明で楽しく学ぶことができました。
- コラージュは今まで何度も経験ありますが、象徴として意味までとらえる観点も持っていると面白いと思いました。
日本クリエイティヴ・セラピスト協会(http://www.creative-therapy.jp/npo/)
第2弾 涙活(2016年12月24日SAT)
一方泣くことは、それ自体ある種の敗北だと思われている節があるようです。「男だったら泣くんじゃない」とか「いつまでもメソメソするな」、「泣いたってダメだよ」などと厳しく躾けられた記憶のある方も少なくないでしょう。泣くことでますます悪いことを引き寄せてしまう「泣き面に蜂」という諺も、しばしば耳にします。
- たいへんよく泣けました。悲しいこともたくさんありましたが、こころは満足です。ありがとうございました。
- 自分は家族に涙もろいことを馬鹿にされていましたが、自信を持ちました。
- 面白い企画でした。これからも面白い企画をお願いします。
- 不思議ですが、泣いた後に少し心が軽くなった気がしました。
涙活Website(http://www.ruikatsu.com/)
第3弾 プレイバックシアター(2017年1月22日SUN)
ある受講者は、部屋に入るなり「えっ、何?」と目を丸くして驚いています。机を取り払って椅子をサークル状に並べ、その中でたくさんの人が体操をしているのです。従来の、セミナーや勉強会と銘打った会場の雰囲気とはずいぶん違います。「場所を間違えたかと思った」。無理もありません。この日は、講師の羽地さんを含め総勢8名の“アクター”さんたちが、始まる前のウォーミングアップをしていたのですから。
1970年代中盤、アメリカのジョナサン・フォックスによって考案されたプレイバックシアター。台本はなく、“コンダクター”によって引き出された私たち自身の思い出(ストーリー)を、アクターが即興的に演じます。ルビー・モレノのサイコドラマと似ていますが、こちらは治療を目的とした手法であるのに対し、プレイバックシアターは、あくまでも分かち合いを主眼に置いています。
人は死に際して、自分の全人生が走馬灯のように蘇るライフレビューを体験する。そのような話を聴いたことはないでしょうか。一説によると、死の危険に直面した時、脳が過去の経験からピンチを切り抜ける方法がないかどうかを、必死に探している状態だそうですが、本当のところはよく分かっていません。
筆者は以前、自分のストーリーを語る“テラー”の役を体験したことがあります。ごくありふれた日常生活の一コマが、アクターによって活き活きと演じられたとき、あたかもライフレビューを見るような、不思議な感覚に捉われました。この世界の片隅で生きるちっぽけな自分の人生が、愛おしく思えたのです。
講師の羽地さんは、日本におけるプレイバックシアターの第一人者。さまざまな医療機関でグループセラピーをされながら、経営コンサルタントとしても企業の教育研修などをたくさん手掛けていらっしゃいます。またミャンマーの孤児院・障がい者施設に毎年訪れ、プレイバックシアターを通した国際交流や人材育成の活動を続けておられます。
- 想像していたより、ずっと感情が動くのを実感できた。
- ワークを通して、自分の気持ち、心を見返すことができました。
- 子どもの頃、自分はあまり楽しい思い出がないと思っていたけれど、そうじゃなかったことに気づき幸せな気持ちになれました。
第4弾 SPトランプ(2017年3月5日 SUN)
こうして出来上がった絵を周りの方と見せ合うと、てんでばらばら。情報として与えられた言葉は同じなのに、受け取り方がこうも違うのかと驚きます。「コミュニケーションも同じですね」。角本さんの言葉に、受講者は頷くばかりでした。ちなみに“がん”は水鳥の“雁”ですが、若い人には難しいようで、眼球の“がん”や拳銃の意味で“ガン”、中には“がん”細胞を描く人もいるそうです。
トランプには「気分屋」「小心者」「誠実」などと性格を示す言葉とイラストが描かれていて、その中から自分の特徴がよく表れている札を10枚選びます。そしてマークごとに感覚的(赤札)または論理的(黒札)、能動的(ハートとスペード)または受動的(ダイヤとクローバー)と4つに分けて、自分の中に存在しているさまざまなSP(サブ・パーソナリティ)を概観します。
関係を改善したい人を思い浮かべて、その人に特徴的な札を選ぶワークも興味深いものでした。赤と黒の割合と選んだマークの数が、筆者と同じだったのです。隣の方も同様の結果になり、お互い顔を見合わせました。人は、自分と似ている者に親近感を抱く一方、嫌な面を投影して苦手意識を持つものだ、ということがよく分かりました。
<アンケートより>
- トランプでこんなに人を表現できるということに驚いた。会社でも活用していけるよう働きかけたい。
- 流れるような講演、とても心地よく理解できました。ありがとうございました。
- 4タイプの理解が深まり、自己、他己のパーソナリティ違いを理解したうえでアプローチの仕方の工夫、強味弱味の使い分け、実践していけたらと思いました。
- 取り組みやすい「カードを選ぶ」という行為で分析できるのが楽しかったです。
株式会社SORA(https://sora.co.jp/)
第5弾 選択理論(2017年3月11日 SAT)
講師の小松さんは、本番の2時間前には最寄の駅に着いて、アシスタントの浜田さんと最終的な打ち合わせをしていたそうです。「なにぶん小心者で…ヘマをしないように準備していました」。その緊張感が司会者に伝染したようです。妙にあがってしまい、喉もカラカラです。そんな様子を見て小松さんは、かえって緊張がほぐれたと後で言ってくれました。
選択理論は、認知行動療法やアドラー心理学、コーチングなどとの類似性が指摘されています。しかし、創始者のウィリアム・グラッサー博士は、その豊富な実践知にフィットする理論を、脳科学とW. パワーズの知覚のコントロール理論をベースにまとめました。その説明は、比喩を用いて分かりやすく、聞いたその場ですぐに活用できるのが特徴です。
人は誰しも、生まれながらに5つの基本的欲求(愛・所属、力、自由、楽しみ、生存)を持っており、その欲求が満たされてはじめて幸せだと感じられると言います。欲求の強弱は生涯変わらないとされていますが、人それぞれの強弱は当然異なります。例えば、「自由」の欲求が強い人と「愛・所属」の欲求が強い人が結婚するには、「かなり調整が必要」になるでしょう。
この選択理論に基づいたカウンセリングを、“リアリティセラピー”と言います。そのポイントは、クライアントの「ありたい姿」にフォーカスし、具体的な行動計画を引き出してそれを共有すること。セミナーの後半、私たち産業カウンセラーが養成講座で学んだ来談者中心療法による傾聴技法と、小松さんのリアリティセラピーのデモンストレーションを行いました。対比によって両者の違いが明確になり、新鮮で分かりやすいと好評でした。
- 来談者中心療法と組み合わせれば、効果的なカウンセリングにつなげられると感じた。両者の比較があったことが分かりやすく良かったです。
- とっても分かりやすい理論で、新しい切り口を知りました。
- カウンセリングにも様々な手法があるのだと思いました。先生のあたたかいお人柄が感じられた3時間でした。
選択理論ホームページ(http://www.jactp.org/)
第6弾 タッピングタッチ(2017年3月26日SUN)
当日は、あいにく冷たい雨が降っていました。講師の中田さんと学校の先生をしてらっしゃるご主人、そして臨床心理士の大森さん(左端)が到着され、「本日は、お呼びいただいてありがとうございます」と、にこやかにご挨拶されると、まるで雲の隙間から太陽が顔をのぞかせたようでした。
心理療法と言えば“舶来品”が多い中で、このタッピングタッチは国産品です。20年近く前に臨床心理学者の中川一郎氏によって考案されました。それ以来改良を重ねて、今では心理、教育、医療、介護など様々な分野で用いられています。他にも被災地でのボランティア活動や、アフリカのウガンダで元少年兵の心のケア、軍隊のないコスタリカでは平和教育の一環としても利用されているそうです。このように、日本発のケアメソッドが、海外にまで広がりを見せているには訳があります。
まず、簡単であること。指や手のひらで、相手の背中や肩、腕などにタッチするだけです。器具を使わないので、いつでもどこでも始められます。左右交互(※)に、ゆったりとしたリズムで10~15分くらい。すると、実際に体があたたかくなってきます。サーモグラフィーによって体温の上昇がはっきりと確認できますし、血中のセロトニン(幸せホルモン)の値もバランスが整います。
次に、言葉は不要であること。タッピングタッチに高度な言語的やり取りはありません。言葉の通じない外人さんが相手でもOKです。以前他の講習会で、3歳くらいの子どもが見よう見まねでお母さんにタッピングしていたそうです。ということは、肉体的な力さえも必要ないのです。また、体に触れられることが苦手な人でも比較的受けやすいのも特徴です。タッチするのは主に背中。手や顔に比べると鈍感な部位なので、ほとんど抵抗はありません。
このように優れたケアであるタッピングタッチですが、筆者は単純に可愛らしい“技”の名前が気に入っています。「ゾウの鼻」、「ネコの足踏み」、「コアラの木登り」。思わず微笑んでしまいます。これなら気負わずに学べそうですね。
<アンケートより>
- してもらって、大切にしてもらっているという感覚があり、優しい温かさを感じた。涙がでてきた。
- ひとりで耐えなくてもいいんだ、人に頼ってもいいんだという思いが湧いた。
- 血流が良くなり汗が出てきました。眼精疲労、肩こりが良くなりました。してもしてもらっても、心地よかったです。
- 久しぶりに手のぬくもりを感じました。終わった後に、自然な笑顔がこぼれました。
- 一緒にいてくれている、自分のために大切な時間を注いでくれている、共に同じ時間を過ごしているという感覚がありました。
- 緩和ケア病棟にいる方などは、どうしても「自分はこのまま一人で死んでゆくのか?」という思いにとらわれることがあると思います。タッピングタッチで感じられる「自分と共にいてくれる人がいる」ということが、患者さんの、残された時間を安らかにできるのでは?と感じました。
タッピングタッチ協会(http://www.tappingtouch.org/)
※トラウマ(PTSD)の治療に有効だとされているEMDR(イーエムディーアール、Eye Movement Desensitization and Reprocessing;「眼球運動による脱感作および再処理法」、シャピロにより開発された治療技法)にも通じるのですが、最近の研究によれば、眼球のみならず人は左右交互にリズミカルな刺激を受けると、短時間でリラックス効果を得、心の傷の修復に役立つことが分かっています。